ふしぎなはきだめ

ふしぎな場所だよ

劇場版ファントムブラッドの思い出 あるいは青春の反省

 せっかくの映画館。「ジョジョファンってダッセーな」と思われるのを危惧して、私は一張羅で出かけました。カーキ色のジャケット。ベージュのシャツ。SEIYUで買った茶色い靴。どんな格好でおでかけしたのか、いまでも思い出せます。

映画の悪評はすでに知っていて、それを覚悟のうえで、映画館の椅子に座っていたように思います。当時の自分はなにを思い、どんな気持ちで上映を待っていたのか……?その記憶には、感情の部分がすっぽりと抜け落ちているのです。
それを知るために、起こった事、思った事を、出来るだけ掘り起こしてみたい。
過去を取り戻す為に書かれた文章ですので、こうして見ると読みづらい点多々あると思います。が、これが私の中にようよう残った、ファントムブラッドのおぼろげな記憶なのです。

 

 冒頭、チベットの山奥でツェペリさんが予言を授かるシーン。雲の広がる山の頂で波紋を使うと、雲が波紋の形を作って、壮大な光景が出来上がります。これぞ映画、という絵面でつかみはOK。

そして舞台はイギリスへ。まずはディオが乗っている馬車の車輪がなにやら四角く、おや、と一抹の不安を作画に覚えました。
ジョースター邸の背景美術は素晴らしく、さすが劇場アニメだと思いました。
そしてダニーを蹴ったディオが言います。
「僕は犬が嫌いだ。人間に媚びへつらう態度に虫酸が走るのだ」
この台詞は、いまでもしっかりと覚えています。

 そこからはしばらく記憶がありません。後年『映画版のディオってジョナサンの枕に針仕込んでたよな』と言われているのを目にし、youtubeで該当のシーンも見ました。ですが、本当になにも覚えていないのです。
ズキュウゥンのシーンは、ジャーンチャララーンというようなBGMが流れていたように思います。当時2chで「あのシーンディオがエリナに舌入れてるような動きだったぞ」というイチャモンがついていたのですが、今となっては確かめる術がありません。そしてダニーの死。『PS2のゲームと違って、映画はPG-12指定だからちゃんとダニーが焼け死ぬ!』というのが映画の売りのひとつだったと思うのですが、覚えていないなぁ。もったいないなぁ。

そしてディオが石仮面をかぶると、緑の光が辺り一面に溢れます。ほーん、映画らしい派手な演出だなー、と見ていたら、その光は屋敷の外まで溢れており、それを遠目に見ていたツェペリさんが一言。
「ムッ! あの光は……」

そんなトンチキなシーンがあったように記憶しているのですが、それは私の妄想なのでしょうか。ていうか、ジョースター邸が目視できる距離にいるのなら、なぜ加勢に来ない?それを考えるとちょっといろいろあり得ないシチュエーションなので、もしかしたらこれは私の記憶間違いの可能性が大いにあると思います。情報求む。
燃え盛るジョースター邸でのアクションシーンは、なんとなく覚えているような気がします。
そしてエリナによる看病。水樹奈々の声は、クセもなく合っているように思いました。そして、ジョナサンの病室に現れるツェペリさん。夜、レースのカーテンのかかった窓際に現れたツェペリさんは、小山力也さんのカッコいい声もはまっていて、「こういうエピソードの繋ぎでの尺を詰めるならまぁいいかな」と思えました。
そして修行……したっけ?ズームパンチとか、使ったっけ?まぁ、いいや。

ディオの根城に乗り込んでいくシーンは、スピード感がありました。こう、地面がブワーッとせり上がっていって、ジョナサンとツェペリさんが足場をピョンピョン進んでいって、それが何者かと剣を交えながらビュンビュン上っていったような……それがたぶんタルカスとブラフォードのつもりなんだよね?っていうか……。
そして戦力が分断された二人。気を失ったジョナサンの首筋にディオがおもいっきり噛みつこうとします。そこをツェペリさんに邪魔されて、ディオが絶叫。
「無粋な輩がー!」
このやりとりに801板がえらく盛り上がっていた記憶があります。『ディオがジョナサンの首筋に噛みつこうとした!!』と。ただあの板、北斗の拳エロゲー(乳はSHOCK~パイを取り戻せ~)もめちゃくちゃ楽しんでたんですよね。レイとユダがくっつくルートがあるぞって、エロゲー板以上に活発な攻略情報が飛び交っていました。だからあの連中が楽しめたからって、すなわち万々歳って結果にはならないと思います。……まぁ、北斗の拳の話はいいや。
その後の記憶は酷くおぼろげです。エリナと結婚して、客船には……乗ったよな。「エリナが見知らぬ赤ん坊を助けるシーンもないから第二部につながらねえよ」という指摘をたびたび見ますが、記憶が古すぎて、本当に助けていないのかそれともそのシーンを私が忘れただけなのかは判断がつきかねます。
そしてラスト、SOUL'D OUTの主題歌が流れるスタッフロール。この主題歌困ったことに、ジョジョの世界観にはマッチしていますが、第一部……特にこの映画の作風には、絶望的に合っていないのです。曲単体で聴くとスッゲェいい曲なんだよゥ。この映画との食い合わせが超絶悪かっただけなんだよ!だから現在、この曲が正当な評価を受けていることが、私にはすごく嬉しいです。当時は坊主憎けりゃの精神で、この曲まで槍玉に挙げる人もいましたから。
そしてラストで登場する、DIOの棺桶。でも、いいんです。今思えば、あれがあったから我々は挫けなかった。そう思うことにします。

こうして振り返ってみれば、いい思い出ばかりでした。気分が良いです。


 世界五分前仮説、という考え方があります。
この世界は五分前にいきなり始まったもので、お前の持っている記憶は五分前に作られた偽りの記憶だ、とするものです。
面と向かってこの仮説を唱えられたとして、それを否定する事が出来るのでしょうか。
自分の記憶に、確固たる自信が持てるのでしょうか。
果たして無力な我々に『ジョジョ一部が映画化され、実際に全国の劇場で公開された』という事実を証明する事ができるのでしょうか。公式サイトは、すでにドメインが消失しアダルトサイトになっています。
当時のパンフレットが、特集が、我々になにを語ってくれる?
あの映画は、もしかしたら私の見た奇妙な白昼夢だったのかもしれない。最近そう思います。